イベントレポート『f∞ studio program #01 in SHIBUYA』説明会

「コニカミノルタ」の社会実装を目指す新価値事業創出プラットフォーム「envisioning studio(エンビジョニング・スタジオ)」とロフトワークがタッグを組んで、『f∞(フー) studio program #01 in SHIBUYA』を今年1月にスタート。2022年12月23日に、“写真”を使った表現活動をする2人のアーティストをお招きして、リリースイベントを開催しました。

『f∞(フー) studio program #01 in SHIBUYA』

「これも写真?」から広がる、未来の可能性

『f∞ studio program』は、“写真”の周縁の探索を起点とし“みる”行為の可能性を拡大する、3ヶ月間に及ぶ体験型プログラムです。参加者には全5回のワークショップを通して、「未来のみたい」につながるビジョンをプロトタイピングします。

今回のイベントは、オンライン・オフラインのハイブリッド形式で開催され、プログラムに参加予定の人はもちろん、そうでない人も年齢・性別・地域を問わず、合わせて30人が参加されました。

会場となったのは、プログラムの本拠地となる「SHIBUYA QWS(シブヤ キューズ)」です。日々“問い”が生まれるこの場所で、『f∞ studio program』が目指すビジョンを参加者に共有します。およそ2時間に及ぶイベントは、大きく2つのパートに分けられます。1部は「エンビジョニング・スタジオ」の神谷泰史と「ロフトワーク」の加藤翼によるプログラムの概要説明を行い、2部は髙野洋さん(写真家/株式会社SHINME 代表取締役)と北桂樹さん(京都芸術大学 大学院芸術研究科 博士課程在籍)をお迎えして、“表現としての写真”をテーマに活動や研究内容を紹介いただきました。

「未来のみたい」を開拓する理由とは?

「コニカミノルタ」は、今年で創業150周年を迎える老舗の事業会社です。「みたい」に応える多彩なBtoB事業を展開しており、オフィスや産業向けの情報機器などを取り扱っています。

同社には、社会実装を目指す新価値事業創出プラットフォーム「エンビジョニング・スタジオ」が設置されています。未来を思い描き、新たな価値を見える化する取り組みの一環として、今回のプロジェクトは走り出しました。

「写真」をテーマとしたひとつに、「コニカミノルタ」がカメラや写真事業に起源をもつ「コニカ」と「ミノルタ」が2003年に合併してできた会社だからという理由があります。長年、人々の「みたい」に応え続けてきた歴史があるからこそ、今一度その原点に立ち返り、これからの人々の「みたい」を探索していく。イベントでは、時代によって意味や価値の変わってきた“写真”の役割に触れながら、『f∞ studio program』が始動したきっかけも語られました。


見“型”を見つけるための仲間に出会える 

プログラムの概要については、加藤からご紹介しました。全5回のワークショップの内容や参加者が得られるメリットのほか、「これって写真?」というテーマで、スライドには妊婦のエコー画像や選挙速報マップ、経年劣化したフローリングなど写真か否か判別しかねる曖昧な事例が次々と映し出されました。

イベントでは、こうした問いについて議論を交わす、メンターの自己紹介の時間も設けられました。プログラム参加者ではスラックグループも作られる予定なんだとか。既存の概念にとらわれない新しい写真を発見したら、すぐメンバーに共有できる環境が整備されます。

『f∞ studio program』では、カメラのf値を調整して被写体にピントを合わせるように、∞にあるこれまで見たかったけど見えなかった事象を捉え、ニュー・スタンダードな自分だけの見“型”を作り上げられる。イベント参加者は各々メモをとりながら、前半の概要説明にプロジェクトへの期待を高めている様子でした。

マテリアルを融合し、メッセージ性を高める

写真をジャーナリズム性のあるものとして捉える髙野さん。 写真を軸としながら、自然や動物と共生する未来に向けた活動を続けています。自身のパートでは、これまで自身が取り組んできた事例を一つずつ取り上げながら、新しい写真表現の仕方を紹介されました。

なかでも熱く語られたのは、写真とマテリアルを融合したアートワークについて。上の画像は、日本で被害が広がっている木の伝染病「ナラ枯れ」にかかっている立木と、まだ生きるナラの木々を多重露光にて一枚の写真にしたもの。空と重ね合わせ透明感のある作品に仕上げます。

ほかには被害にあってしまった木を輪切りにし、そこに撮影データを印刷した作品や、木地師さんに協力を仰ぎナラ枯れ材を使ったワイングラスなども作られています。ここでは、必ずしも写真=紙ではないことを実際のアウトプットから学ぶことができました。

髙野さんは、写真の周縁を探索し新しい取り組みにも挑戦しています。それが、移動型スタジオ “旅するstudio&cafe”。 地域での撮影時には機材車及び移動編集スタジオとして、イベント時にはコラボ出店やキッチンカーとして、社会や自然と共創するための現場として存在感を発揮します。事業を運営するにあたって、髙野さんは「時代や地域によって味や盛り付けの変わる“食”も、“今”を映し出す写真のひとつかも知れない」と感じはじめたのだそう。

髙野さんは「シブヤ キューズ」の会員でもあり、写真部を発足し2ヶ月に一回の頻度でワークショップや講義も開催中。写真が持つ可能性や楽しさを、身近なコミュニティでも伝えています。

「昔だと誰も見たことのない世界とか、歴史的な瞬間がたくさんありました。でも今って誰もが写真を扱えて、かつ地球上において見たことのないものがどんどん少なくなっている状況ですよね。今こそ写真の進化が求められている。僕はこれまで、フィルム写真のように一枚しかない写真表現に邁進してきましたが、このプログラムを通して次のテーマを見つけていきたいと思っています」

次々に生まれる「写真変異株」を表現の一部に

北さんは、現役でポスト・フォトグラフィーについてのスタディも続ける写真アーティスト。当日も作品展の準備のため、当日はオンラインで参加されました。講義では表現者と研究者の両方の視点を掛け合わせた独自の写真論を、写真史や写真芸術作品を例に取り上げ根拠を提示しながら展開されました。参加者が想像する写真の概念を覆す充実した内容が繰り広げられ、聴き終わるころには一同「写真とは?」という問いで頭がいっぱいに。まさに、『f∞ studio program』の序章に相応しいお話を伺えました。

まず、北さんは講義のなかで、現代写真を代表する写真家の一人トーマス・ルフ氏を研究するマルクス・クレイマー氏の言葉を借りながら、写真を次のように再定義されました。「写真は真実を写すものではない。写真とは入力されたものが技術的な変換を経て出力されるフォトグラフィック・オブジェクトであり、これまでの写真はその2次元複製である」

その参考にピックアップされたのが、トーマス・ルフ氏の『zycles』。イギリスの理論物理学者、ジェームス・クラーク・マクスウェル氏の電磁場を記述する古典電磁気学の基礎方程式を3次元空間内に再現しバーチャル上で撮影、それをインクジェットプリントでキャンバスに印刷した作品です。

ポイントは、モチーフとなった方程式には、過去も未来も現在も時間的な要素は無関係であること。北さんによると、トーマス・ルフ氏は鑑賞者に「これは写真ですか?」と尋ねられ、「アングルを決めてシャッターを押してはいる。果たして、写真なのかな?」とその答えをあやふやなままにとどめたんだそう。北さんは「今回のプロジェクトでも、これくらい写真かどうかもわからないようなものが、話題に上がるとよさそう」と今回のプロジェクトに期待されました。

次に論じられたのは、写真の役割について。北さんは「写真は見えなかったものをみえるようにすることもできる」と言います。ここではロンドンの芸術家ワリード・ベシュティ氏の作品が参考例として持ち出されました。

ワリード・ベシュティ氏の作品は、銅メッキされた鉄板の箱をロスのスタジオから香港のアートフェア会場まで一般輸送で荷物を届けることによって、作られています。そうすることで汚れや凹みを作り、アートフェアが多くの人の手によって完成されるものであることを表現します。彼はこの作品で、地球の美しさを写真がみせたように、美術業界の産業の裏側を私たちにみせてくれるのです。

加えて紹介された、日本の現代写真アーティスト横田大輔氏の作品では、3次元的な写真表現について言及。現像時のテクニックにより写真を凸凹とさせ、これまで2次元平面の作品を観ていたときに感じていた奥行きをリアルに表現しているのが革新的で、北さんは「写真の表現の幅を拡張させる作品」として紹介されました。

講義の最後には、まとめとしてまだ世に発表していないという北さんの現在のポスト・フォトグラフィーについての見解も披露されました。

「写真はコロナウイルスと同じようなウイルス的なものだと思います。長い時間、紙に写真をプリントするのが当たり前になっていますが、それが写真の全てではない。ただその手法が流行ってきたというだけの話です。そのように考えると、テクノロジーが進化している現代において、写真における変異株はどんどん増え続け、写真の可能性を拡大していくと予想できます。これまでの写真に対する常識はみんなのベーシックではなくなり、これからは写真変異株どうしを比較する時代に突入するでしょう」

世の中にあるすべての現象は、写真として捉えられる

一説によると、これからの10年、過去100年のそれと同じくらい社会が変化していくと言われています。そのなかで、“常識”の概念も大きく変わっていくことが予想されます。今回のプロジェクトの主題である「写真」もそのうちのひとつでしょう。現代は歴史上、最も写真が生活になじんでいる時代。変化の幅も大きいと思うのです。

イベント中、印象に残ったのは北さんの「写真以外のものを探すのが難しい世の中だ」という視点。「3Dプリンターを使って作られる物は、技術的な変換を経て出力されるため、全て写真。その考えを当てはめると、家も写真だと思うんですよね」と言葉を付け加えられました。もしかすると、「コニカミノルタ」が建築業に着手する未来も0ではないかもしれません。

写真は私たちが思っている以上に「未来のみたい」を叶えてくれる存在だと思えませんか? 「未来のみたい」に挑戦する、『f∞ studio program』はすでに多数の参加者と一緒に動き出しています。

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みたいのプロトタイプ最終発表会レポート~f∞studio program #01